延岡名物 高田万十


このHPを読んでくれている方はご存じかもしれませんが・・・改めてここに宣言せていただきます。
『僕はお袋と全く気が合いません!』
そんな二人が一日中あの狭い店内でほぼ二人で過ごすのです・・・色々突っ込みたいとこ山盛りでギスギスした毎日を送っています。

例えば当店のお昼ご飯はチョー早いんですが・・・僕は11時くらい、お袋は開店時間前からテレビを見ながらちょこちょこ食べて、準備をしながらテレビを見つつご飯を食べます。
その基準として『炊きたてのご飯』がある時・・・その時に食べねばならないみたいです。
熱々のご飯と熱々のおかずを『ホフホフ・・・』いいながら食べています。
炊飯ジャーの炊きあがりの『ピー!ピー!ピー!』の音が鳴ると、洗い物の途中でもいそいそと茶碗を準備し熱々のおかず(ほぼ9割鍋料理)を器によそいます・・・。

それから小一時間ぐらいしてから僕なんかが食べるわけですが、ぬるいといいますか冬場なんかには冷たい鍋料理のおかずをそのままお皿に入れてくれたりします。
「せめてチョットくらいは火を付けて温めてくれてもいいじゃんけ」
おかずとご飯をお裾分けしてもらう身分ですが、さすがに冷たいのはどうかと文句が口からこぼれます。
「さっきまで熱々やったからそんままでいいと思ったとよ!私が食べた時は熱々やったもの!」
当たり前です!自分は他のことを放り投げても炊きたてを食べるんです!

しかもですよ・・・僕がバタバタと焼いているときに
「これいつ開けたかね?」
冷蔵庫を開けドレッシングやポン酢を僕に向けてフリフリします。
僕を見て分からんかね・・・忙しく働きよるじゃろ・・・腹が立つ!
「知らん!(黙れ!)」
「ちょっとあんた食べてみてん!食べれるかみてみね!」
なんのためにあなたの食べたいものの毒味をせにゃならん?
「食べてみりゃいいじゃんけ!悪りかったら捨てね!(ふざけんな!)」
自分で毒味すりゃいいんです!
「・・・やっぱやめちょこ!」
ゴミ箱に捨てます・・・
腹が立つでしょ!喧嘩が始まるのも致し方ないかと思います・・・。そんなのばっかりです・・・。

先日、亡くなったヒーバーがお世話になっていた介護施設から荷物の引き取りの準備が出来た旨の連絡がありました。
親父の車を借り施設に向かい建物の中に入ると・・・
ヒーバーが亡くなった事、もうこの世にいない事・・・お葬式も済ませお骨は実家の仏壇の前に供えてある事…ちゃんと知っていますし理解もしているのですが・・・。
施設の奥のヒーバーがいつも座っていたテレビ前のテーブルに目が行きます。
なんとなーく・・・どこかにいるんじゃないかと目であたりを探してしまいます。
「おっ!来てくれたっけ!」
と右手を挙げるいつもの仕草でどこかで僕が気づくのを待っているんじゃないかとキョロキョロしてしまいます。
・・・ヒーバーはいません。
スタッフの方にうながされ荷物を入れたダンボオール箱4箱を台車に積み、受け取りの書類にサインをします・・・。
『この書類にサインをするって事は…本当にもうヒーバーはいないんだな・・・』
分かっていたことですが、その事実を突きつけられたような気がして・・・亡くなった夜も、お通夜の日も、葬儀の日も、火葬場でお骨を拾った時も蛇口を閉めたように出なかった涙がポロポロとあふれ出て・・・
スタッフの人もどうして良いのかどこを見て良いのか困った様子でした。
人相の悪い壮年のヒゲ親父が大粒の涙流して泣くんですもの・・・困りますよね・・・。

施設のみなさんに涙ながらにお礼を言ってお店に帰り、ヒーバーの遺品をもう少し落ち着いたら家族みんなで整理しようとお店に運んでいると
「ゴミは段ボールのまま出して良いとけ?」
とお袋。
「明日クリーンセンターに持って行くわ!」
と親父!
「ん・・・んまー(怒)!ゴミとはなんよゴミとは!ヒーバーの思い出を見らんでいいとけ!」
この薄情!我が親ながら残念です!
「そんげなこと言っても、実家もお店もヒーバーの物でいっぱいじゃが!どんどん整理しないと終わらんもの!」
・・・確かにお店も実家もヒーバーのものだらけなんです・・・。元来買い物好きで、バックや小物入れが好き、キーホルダーや小物雑貨が好き、編み物が好き、洋服好き、タンスも5個以上、衣装ケースも何箱も!
それに『死んでも捨てるべからず!』のビデオ・8ミリテープ、写真、表彰状と短歌ノート山ほどあるんです。

毎日毎日少しづつ、少しづつタンスや衣装ケースを処分しています。
すると裏の事務所(ヒーバーは元気なときここのベッドで一日を過ごしていましたから、ココにも衣装ケースやタンスが置いてあります。)から
「チョットー!」
お袋が呼びます。あんたは暇でも僕は焼かないといかんのに・・・
「なんけ!」
急いで事務所に向かうと
「・・・なんか話し声が聞こえんけ?」
戦々恐々とした表情でお袋が言います。
「当たり前じゃん!事務所の窓側は自転車置き場じゃろ!人の話し声も聞こえるわ!」
ふざけんな!こっちは急いで戻らないとタイ焼きが焦げちゃいます!
「違う!押し入れ・・・いや衣装ケースの方から聞こえるとよね・・・」
確かにボソボソ・・・ボソボソ・・・と聞こえる気がします。
「開けて見てみりゃいいじゃんけ!」
簡単な話です。
「いやーぞ!あんたが見てくんね!」
・・・本当にこの人は・・・残念な人です。
衣装ケースをどけ、周りの段ボール(ヒーバーの服がはいっていました)をどかすと・・・デカデカとヒーバーの名前の書いた携帯用ラジオが出てきました。
いつの昔のデザインで、電池も切れかけていたので声も途切れ途切れに聞こえています。お袋が荷物を動かした拍子にスイッチが入ったんだと思います。
「なんけ!ラジオじゃんけ!・・・ラジオくらいで大げさに騒いで!」
本当に迷惑です。
「ラジオけ!・・・『死んでも捨てるな』の荷物をじゃんじゃん捨てよるから、ヒーバーが恨んで化けて出てきたかと思ったわ!」
とお袋・・・
「なんけヒーバーの幽霊なら恐いことないじゃろ!おれは出てきて欲しいくらいじゃわ!」
「私しゃいやーぞ!ヒーバーが出てきたら文句言われるわ!」
お袋・・・私は残念です・・・。