延岡名物 高田万十

ビワとTシャツとわたし

朝、庭に出るとビワがたわわに実っているのを発見。そういえば、義母が「ビワがなったら教えてね」と言っていたなぁと思い出し、出勤前にちょっとした収穫祭を決行することにした。

腰ほどの高さのブロック塀に乗り、枝を手元に引き寄せながらビワをもぎ取る。気分はさながらベテランの果樹園農家。だが、その矜持は一瞬にして打ち砕かれることになる。隣の枯れたオリーブの枝が、見事なコントのようにお気に入りのTシャツにブスッと刺さったのである。「嘘だろ…?」と呟きながら、恐る恐るTシャツを見ると、そこにはぽっかりと開いた穴。お気に入りのTシャツが、思わぬ形でパンク仕様へと進化した瞬間だった。今日の朝はビワの甘さとともに輝いていたはずなのに…。とほほな気持ちで出勤することになった。

ボロボロのポンコツ軽バンのアクセルを踏み車を進めると、小学校の校庭から「集合!整列!」という威勢のいい掛け声が響いてきた。すでに授業が始まっているらしい。そのまま校門の前を通ると、一人の少年が、ランドセルを背負ったまま、帽子をかぶったり取ったり、さらに両手でグルグルと回してみたりしながら、中をうかがうようにそわそわしている。五年生か六年生くらいだろうか。ちょっと体格のいい子だ。

「これは…遅刻してしまったのか?それとも長期欠席明けの緊張か?」と想像する。思い返せば、遅刻や休み明けの朝、校門前で足が止まってしまう気持ち、わかる。入ってしまえば大したことはないのに、門の前では妙に時間が止まるのだ。そしてその時間の止まり方、だいたいランドセルをグルグルしてしまう程度の緊張感なのである。

余計なお世話かもしれないが、気になってしまったので近くのコンビニへ立ち寄り、電話をかける。

「○○小学校ですか?今、校門前を通ったんですけどね。男の子が入ろうか帰ろうかソワソワと困ってまして…。もしよかったら、怒らずに迎えに行ってやってもらえたら嬉しいです。」

電話を切りながら、「今日、あの少年が無事に学校へ入れたらいいな」と思う。まぁ、俺のTシャツほどのダメージは受けていないはずだ。何とかなるだろう。

そう思いながら車を走らせる。なんとなく一周ぐるっと回ってもう一度小学校の前を通ってみるが…まさかの展開。

ランドセル少年、歩いてる。しかも、帽子をかぶってグルグルしながら。

「おい、まだ門くぐれてないのか⁉」と思った瞬間、信号が青になり、ポンコツバンは静かに走り出す。

…こうして、俺の人生には「少年、無事登校」の答え合わせは訪れなかった。まるで続編が必要な映画みたいに、謎は謎のまま。

さて、仕事を始める前に、今日の教訓をまとめておこう。

  1. 庭仕事をする際は、お気に入りのTシャツではなく、戦闘服を着用するべし。
  2. 校門前の緊張は、ランドセルのひもをグルグルすることで和らぐらしい。
  3. どんなドラマも、必ずしもスッキリした結末を迎えるとは限らない。

そんなことを考えながら、俺はいつも通り仕事に向かうのであった。今日はどんなドラマが待っているのか、ちょっと楽しみだったりもします…。

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