あれはたしか、二十代の頃だったと思います。
ある日、同級生の女の子にいきなり言われたんですよ。
「ねぇ、あんたって弟おったっけ?」って。
いやいや、弟なんかいませんよ。うちは姉とふたり姉弟でして、しかも姉ちゃんとは6つ離れてますから。
なので即答で「おらん!姉ちゃんだけやけど、なんで?」と。
すると彼女が、なんか思い出し笑いみたいにしながら言うわけですよ。
「じゃがねぇ…この前ね、友達の車で港行ったっちゃが」って。
当時はですね、男の子はクラウンとかセドリックとかデカい車乗ってて、女の子はだいたい軽。
で、車で夜の港をぐるぐる回るのが流行ってたんですよ。
いま思えば、若気の至りもいいとこなんですけど、まあ、ナンパごっこみたいな、そういう流れ。
それ聞いた瞬間、真面目が服着て歩いてるようなぼくは言いますよ。
「お前な、港なんか行ったってろくなことないんだから、そもそも行くな」って。
そしたら彼女も少しむっとした感じでね、
「違うとよ!車出してくれた子が言ったことないって言うから、ちょっと回ってみただけやし」って。
で、ここからが本題。
その港で、軽に横づけしてきた男の子が言ったそうです。
「おれ、高田万十の息子やっちゃけど」って。
え?それ、完全にぼくのとこなんですよ。うちの店、高田万十。
そしたらその女の子も当然、「えっ?私、その息子と同級生やけど?」ってなるじゃないですか。
すると男の子、言うわけです。「あ、兄貴の同級生?」って。
……いや、ちょっと待ってくれと。
おれ、ひとりっ子じゃないけど、姉ちゃんだけやから!弟、僕の知る限りいない事になっています。
しかもこの話、そこで終わらんのです。
この港の話を別の同級生にしたところ、その子も言うんですよ。
「ああ、国道沿いの本屋さんで声かけられたことある〜、高田万十の息子って名乗る子に」
な、なんなんだこの『謎の高田万十の息子』現象は……。
さすがにちょっとモヤモヤして、うちの親父に
「ねぇ、父さん…実は弟とかおるん?」って聞いたら
「バカ言うなおまえ!」って怒鳴られましたけど、いや、そんな怒らんでも……。
ちなみにうちの親父、若い頃の写真見たら、まあまあ顔立ち整ってるんですよ。
若いときけっこうもてたらしいんです。怪しいんだこれがまた……。
で、そんな事もあったな・・・と亡き父を思い出していた先日のこと。
店に来た、うちの母よりちょっと若いくらいの男性のお客さんが、会計のあとに言うんですよ。
「いやぁ、新しくなって店、ええようになったねぇ」って。
ここまではよくある話。
でもそのあとぽつりと、
「実は、前にこの店やってた人と、親戚になるんよね」って。
ん? 親戚? 前にやってた人って、それうちのじいちゃんか親父ですか。
じいちゃんもばあちゃんももう亡くなってて親父も亡くなった、母親は施設にいて、親戚関係のこと言われると、こっちも心の準備がいるんですって。
「えっ、どちらのご親戚ですか?」って聞いたら、
「だから、あんたには関係ない話やから」って言われて、余計ややこしいことに。
「……じいちゃんの親戚ってことなら、ぼくに関係ないってことはないと思うんですけど」って返すと、
「いや違うって。前にこの店をやってた人の親戚。あんたとは関係ないと」
うーん……「前にやってた人」って、だからそれ、我が家の人間なんですってば。
「えっ? み#$%&…なんとかの人でしょ?」って最後にゴニョニョっと言ったんですが、
『み』しか聞き取れなくて。
「三重県の人ですか?」って聞き返したら、
「なんで三重県よ!」って逆ギレされて。
でも、うちのじいちゃん、三重県出身なんですよ。
子どもの頃に京都で丁稚奉公して、その流れで延岡に来て、商売はじめたって聞いてますから。
だからじいちゃんの親戚もたいてい関西なんですよ。
で、そのお客さん、「まぁ…子どもの頃の話やけんな」って言い残して去っていきました。
……いや、だから結局、だれが親戚で、だれが弟やったんですか?
謎は、深まるばかりです。ほんとミステリー…。
かき氷はじめました!
かき氷始める前は、「いつから始めるの?」と頻繁に問い合わせがあります。
特に電話での問い合わせはたくさんいただきます。
…しかしいざかき氷始めるとあれほど頻繁にかかってきていた電話での問い合わせがピタリと止まります。
…これまたほんとミステリー…。