延岡名物 高田万十

かき氷はじめました

うちの古いバンがですね、このたび車検でした。
いやもう、毎度のことながらギリギリまで放っておくもんだから、またバタバタしてしまって。仕事もあるしね。
そもそも車検なんて5年に一回で充分じゃないかって思うんですけど、まあ国が決めたことなんで逆らえません。

ところでみなさん、車検ってどこで受けてます?ディーラーとか?それとも安いやつ探してカー用品店ですか?
ぼくは昔からお世話になっている知り合いのT自動車工場にお願いしてるんです。

このTさんというのがですね、もともと店の隣にあったガソリンスタンドで働いてた方でして。
子どもの頃はそのスタンドがぼくの遊び場だったんですよ。
今思えば迷惑な話ですけどね。お客さんの車にボールあてたり、洗車したての車汚れた手でベタベタ触ったり…怒られながら毎日入り浸ってました。

「おい〇〇(ぼくのこと)、キャッチボールやるぞ。グローブ持ってこい」
ってスタッフのみなさんが遊んでくれたり、
「コマってのはな、こうやって相手の上から叩きつけんと勝てんとぞ」
って喧嘩ゴマの技まで教えてくれたり、
「こんローレルはよ、本当は2000CCやっちゃけど、スクラップから3000CCのターボエンジンとってきて載せちょっとぞ!すげーじゃろが!」
とかね、子どもに教えちゃいけないような車の裏事情まで。

極めつけは「聞け聞け〇〇(僕の事)、この音!すげーどが!」ってアクセル思いきり吹かしてみせたり。
今なら完全にアウトですよ。でも、そういう時代だったんでしょうね。

ただ、そのスタッフたちがですね、地元の暴走族がエンジンふかして走ってると
「うるせぇ!よそでやれ!」
って、ちゃんと怒ってたんです。子どもには甘いけど、大人として言うときは言う。ああいうの、今でもちょっと憧れます。
「すいません!先輩!」
て返事があったような無かったような…そんな記憶もありますが。

で、そのスタンドも無くなって、それぞれ違う道に進んで。保険屋さんになった人もいれば、会社員、ペンキ屋さんになった人もいる。
その中で特に車が好きだったTさんが自動車修理工場を始めたわけです。

それからはうちの車関係は全部Tさんにお願いしてます。
大学時代、初めて買った4万円のミラージュもTさんに探してもらって、就職して買ったシルビアもTさん。
ちなみに今乗ってる、車検込み30万円のバンももちろんTさん。
ほんとに、頭が上がりません。

この間、車検が終わって車を取りに行ったときもそうでした。
ちょっと世間話してから「そろそろ仕事戻るわ」って帰ろうとしたら、
「〇〇(ぼくのこと)、飲み物持っていけ」
って、工場の片隅に置かれた年季の入った冷蔵庫を指さすんです。
「どれがいい?」って。

中にはブラックの缶コーヒー、微糖、カフェオレ…。
どれにしようか悩んでいたら、奥の奥からわざわざ取り出してきたのが――まさかのヨーグルッペ。
「おまえはこれがいいやろ」って。孫が来たときのために隠してあったやつですよ。

いやいや…Tさん、ぼくもう56歳ですよ。
いつまでも子ども扱い。ありがたい話です、ほんとに。

そんなこんなで、今日も店でせっせと働いております。

あっ!そうそうかき氷はじめました!

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