みっちゃん２

みっちゃんとの出会いは高校一年の初めてのお弁当日だったと記憶しています。
僕の通っていたのは今は無き思い出の『延岡西高等学校』でした。
まだよそよそしさと照れくささが会話の端々に現れる昼食時間に、校舎の一番端っこの1年7組の教室の前方の引き戸がガラッと開きました。
クラスの全員が注目する中、睨みを利かすように眼光鋭く大柄のパンチパーマオールバックの男子生徒が、これまた眼光鋭い小柄な坊主頭の男子生徒を引き連れて教卓の前に立ちました。
大柄のパンチパーマはおもむろにその大ぶりの右手を硬く握りしめ、これまた大ぶりのゲンコツを作って見せました。
そのゲンコツをゆっくりと口元まで持って行くと･･･
「一番！K松み○○○（みっちゃんの名前）『兄弟船』。♪波の谷間に～♪･･･
」
といきなり演歌の大御所鳥羽一郎先生の「兄弟船」を熱唱し始めました。
一番を歌い終わると･･･

「おぉ～！」「みっちゃ～ん！」「ちょー上手い！」
歓声と共に拍手がわき起こりました。
「二番！B崎K治（坊主頭の名前）『兄弟船』。♪波の谷間に～♪･･･」
坊主頭の男子生徒もこれまた上手に演歌を歌い上げました。
みっちゃんと坊主の男子生徒同じクラスだったのですが、坊主頭がたまたま鼻歌で兄弟船を歌っていたらみっちゃんの18番であると･･･。坊主頭もおれの18番であると･･･。どちらが上手いか他のクラスで歌って拍手が多い方の持ち歌として18番を名乗れるかそこで決めようと乗り込んできたそうです。
「おぉ～！」「B崎！」「ちょー上手い！」
こちらも歓声と拍手が巻き起こりました。
どちらも同じくらい上手かったし、拍手も歓声も同じくらいあがりました。
どちらが勝ったか判断できなかったみたいに2人がにらみ合っていたので･･･
「三番高田、C-C-B『ロマンティックが止まらない』♪ながいキッス途中で～♪」
思わず三番手に名乗りを上げてしまいました。
しかも「兄弟船」歌えないし、前日のベストテンで一位を取った曲だったので何となく歌えたC-C-B･･･
（後日談なのですが40歳超えたあたりで娘達と嫁さんにソーッと告白されたんです･･･僕は相当な音痴だという事実を･･･。そんな事･･･知らなきゃ良かった。今まで友達そんなこと言わなかったんだけどな･･･。言えなかったのかしら･･･。残念です。）
それでもやっぱり同じくらいの拍手と歓声があがりました。
『結局誰でもいいんじゃん！』
と勝者無しながら、敗者も無しという大岡裁きのごとくになり、たまたま歌いながら左手に持っていた弁当のフタに、唐揚げ・卵焼き・ウインナー・等々ご褒美代わりのおかずが山盛りになるというありがたい事態が発生しました。
これに味を占めた僕たちは、しばらく3人でお弁当の時間に各クラスを回っては歌を歌い、お弁当のおひねりをもらうという営業活動にいそしむ毎日を送りました。
ちなみにみっちゃんのパンチパーマのオールバックは、中学時代の坊主頭を少しずつ伸ばしているきつめの癖毛頭の途中経過でありました。
かくゆう僕もきつめの癖毛のオールバックでした･･･。
そんな人相の悪いパンチパーマの2人とボーズ頭がお昼休みに歌を歌って無理矢理聞かせて弁当をせびるという･･･まるで危ない職業の方のみ○じめ料のようです･･･。

修学旅行二日目の朝、朝食を取る為に食堂に向かっていると公衆電話で電話をかけているみっちゃんの後ろ姿を発見しました。
高校生です･･･夜寝る前に自宅に電話をするのはものすごく恥ずかしい事のように考えていました。
「子供じゃねーんだし！家に一々電話なんかせんわ！」
なんて言ってた男子生徒の中で･･･みっちゃん誰に電話してるんだろ？
表情を見ると真剣な面持ちでなにやら話しているようです。
『家にかけてる雰囲気じゃ無いね･･･じゃあ朝からどこに･･･かっこ付けてるけど本当は家に電話してるのかな？』
お腹も減っているので食堂の席に着く頃にはみっちゃんの電話のことなんか記憶の彼方に消えていました。

ご飯に味噌汁、小さい鯖の切り身、ノリに生卵に納豆。ご飯のおかわりを何で食べるか逆算して食べなきゃ行けません！だって足りないんだもん！
お！女子の方から鯖の切り身・納豆・生卵がドンドン回されてきます！
「ありがとう！そんなに食わないで昼間でよくもつね！」
わがクラスは食欲旺盛なのがそろっています！残飯処理はおまかせあれ！
餌に群がる豚のように食べていると
「僕たちは今日修学旅行に来ています･･･」
テレビからアナウンサーが読み上げる声が聞こえてきました。
テレビを見ると『めざましテレビ』の前身『朝のホットライン』で草野仁さんが手に持った原稿を読み上げています。
『そりゃそうだわね･･･この富士山の見える湖の周辺だけでも相当の数の高校が修学旅行できてるもの！』
納豆を混ぜながら気にも留めずにいると
「今日僕たちは東京に向かいます！」
『お！俺たちと一緒じゃん』
「東京に着いたらまず東京タワーに向かいます」
『これまた俺たちの予定と一緒じゃん！』
納豆をご飯に乗せながら
「東京タワーで僕たちを見かけたら、笑顔で手を振ってくださいね！」
『誰かわかりもせんのに、誰が手を振るんよ！しかも笑顔て･･･』
大きな一口で納豆ご飯をほおばろうとしていると
「修学旅行ですか！楽しい一日になるといいですね！これは宮崎県立･･･」
草野さんの発した『宮崎』というキーワードに食堂の全員が反応します。
「延岡西高等学校」
「おぉ～！」
思わず声が出ます。
「K松み○○○君からの投稿です！」
「おぉ～！みっちゃん！」
当時『朝のホットライン』では電話でコメントを投稿するコーナーがあったんです！
でもなかなか放送内でコメントを読んでもらえることも難しく、僕も何度か挑戦したものの読まれたことはありませんでした。
「なんけみっちゃん！さっき真剣な顔で電話しよったのこれじゃったっけ！」
納豆のネバネバをはき出しながら聞くと
「そうよ！まさか読まれるとは思わんかったわ！ワハハハハハハハッ！」
その日バスで東京まで移動して『東京タワー散策中』、必要以上に笑顔で周りに手を振ったのは言うまでもありません･･･。