延岡名物 高田万十

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ヒーバーを可愛がってくださり誠にありがとうございました!

   


10月2日のことです。
朝の開店準備をしていると、電話がなりました。
お袋が受話器を取ると、ヒーバーを預けている施設の看護師さんからでした。
朝ご飯を食べ終わったヒーバーがベッドで横になろうと、スタッフさんに手を引いてもらいながら歩いていると、気分不良を訴えて嘔吐してしまい腹痛を訴えたと言うことでした。
担当お医者さんに見てもらう為、病院で付き添って欲しいと言うことでした。
親父もお袋も体調が悪いと言うので、僕が付き添いに行くことに・・・。

車を飛ばして病院に着くと、ヒーバーはストレッチャーにのせられ病院の看護師さんに採血のための注射をする為に腕にゴム管を巻かれている最中でした。
ヒーバーは昔から血管が細く、どんなベテラン看護師さんでも一発で採血成功した人はいませんでしたので
「血管が細いから手の甲から注射してたみたいですよ」
と教えて差し上げました。

しばらく待合室でもまつと先生からの診断結果の説明と今後の方針の確認の為に診察室へと呼ばれました。
診断の結果は
○嘔吐したのは脳梗塞の疑いがある
○脈拍が30~40しかない。心不全
○肺に水が溜まっている。
と言う診断でした。
施設に入所するときに100歳という高齢な為、大きな病気になった場合体に負担のかかる手術や治療、延命措置はとらない『看取り介護』でお願いすると言うことになっていたのでその確認をとられました。
「以上の診断結果がでましたが、精密な検査をしてみないとはっきりとはわかりません。また『看取り介護』を希望されていますのが、検査・治療を希望されるなら県病院に転院させることは可能です。ですが高齢な事もあり、検査・治療・手術となった場合逆に患者さんの体に大きな負担をかける場合があります。それに状況が良くなると断言することも出来ません・・・」
いつかこの日が来ると分かっていたのですが・・・頭は正常に働くことが出来ません・・・
「ですが・・・このまま施設に帰ると言う判断をされたなら・・・今日明日にでも・・・と言うことも十分考えられます・・・」
返事をすることが出来ませんでした・・・。
「一度家族電話してきてもいいでしょうか?」

とにかく一端この場を離れ冷静に考えることが必要でした。
病院の外に出て、駐車場の車に乗り込みお店に電話をかけます・・・
事の次第と状況を話すと
「・・・看取りでお願いします」
お袋は言いました・・・。そう言うだろうと予測はしていましたが・・・でもお袋を責めることは出来ません。
101歳のヒーバーを長いこと面倒を見てきていたのです。しかも前日は自分も血圧が高くてお店を休んでいます。
自分の体力にも気力にも自信が無いのでしょう。

お袋の口から『看取り』の言質をとったものの・・・心も頭も迷いで一杯でした・・・。
動揺を落ちくけたい気持ちと、どうしても嫁の声が聞きたくなって思わず嫁の勤務先に電話してしまうと
「ヒーバーの事を一番に考えたら、転院して治療は可哀相だと思うよ・・・」
その言葉で迷いが無くなりました。
そのことを先生に伝え、施設から付き添ってきてくれた看護師さんに伝えると
「そのほうが○○さん(ヒーバー)にとって最良の選択だと思います」
と応えてくれました。

しかし心の中隅っこの端の隙間では、数年前に大腿骨を骨折し『おそらくこのまま寝たきりになってしまうでしょう・・・』の予想を覆し再び歩き出したり、昨年肺炎で入院したときも『このまま容態が回復することはないかもしれない・・・』の予想をこれまた覆した不死鳥のヒーバーです!また復活して元気になるかもしれない!と微かな希望も持っていました。
それから二日間は体力を温存するように眠り続けたヒーバー。
三日目は目が覚めて、夜中中元気に過ごしました。
肺に水が溜まっているので酸素マスクをしているのですが、息が苦しいのはそのマスクのせいだと思い込み
「この毒ガスマスクをはずしてくんね!こんなのしてたら死んでしまうわ!」
いいえそれをしないと死んでしまいます。
朦朧としている時間もあり、
「このままお母ちゃんのところに行かせてくんね!もうお母ちゃんのところに渡らせてくんね!」
三途の川を渡ろうとしているのか?
「宮司さん!神様をお呼びください!この苦しみをはらいたまえ!私をお救いください!神様~!お助けください!」
廊下に響き渡る柏手も101歳とは思えない力強さでした。
やっと静かになったと思い時計を見ると5時過ぎでした・・・少し眠ろうかとヒーバーのベッドの横に置かれたソファーベッドに横になりました。
ウトウトしつつ・・・となりを見ると、ベッドに腰掛け立ち上がろうとしています!
慌てて飛び起き
「寝ちょかないかんよ!転んだら大変じゃが!」
ベッドに横にならせました。

施設のスタッフさんの仕事の大変さには頭が下がります。
夜中に何度も様子を見に来てくれて、嫌な顔一つせず笑顔でヒーバーのお世話をしてくれます。
「こん人(僕)誰かしってるけ?」
ヒーバーはスタッフさんに笑顔で聞きました。
「知ってますよ!テレビでも紹介されるでしょ!○○(ヒーバー)さんのお店は!有名ですもんね」
スタッフさんも笑顔で大げさに言ってくださいました。
「そうけ!有名け!」
うれしそうに笑うヒーバー・・・
「さすが私の兄貴じゃわ!」
「え!○○(ヒーバー)さんのお兄さんですか!」
スタッフさんもビックリです!
「そう!私の自慢の兄貴よ!」

これがヒーバーの声を聞いた最後の会話でした・・・。
翌日からまた眠り続けるように少しづつ少しづつしゃべらなくなり、反応が弱くなっていったヒーバー・・・。
顔を見に行く度、付き添いで夜を過ごす度
「がんばんねよ!ヒーバー!」
「がんばって息をせんけ!心臓も動かさんけ!」
「がんばれ!ヒーバー!」
の声に応えるように、食べれない・水も飲めないながらも19日間がんばってくれました。
平成27年10月21日午前2時、101歳の天寿を全うしました。

ベランダで洗濯物を家内と干しながら月をながめると、僕を見ると『手を握れと』ベッドから手を差し出したヒーバーを思い出し・・・
「仕事に戻らないといかんからまた来るね!」
と言うと
「また来てね!早く来てね!」
と手を離さなかった事を思い出します。
なんでもっと会いに行ってあげなかったんだろう・・・仕事はもういいわ!と『もう帰れ!』といわれるまでそばにいてあげなかったんだろう・・・後悔ばかりが頭の中をグルグルと回ります。
願わくは天国で先になくなったヒージーと楽しく幸せに過ごしてくれればと思っています。
みなさんに可愛がっていただいたヒーバーは本当に幸せな人生であったと思います。たくさんのお悔やみのコメント、お言葉を頂戴いたしました。ありがとうございました。
またお通夜・葬儀にたくさんの方がご参列くださいましてありがとうございました。この場をお借りしましてお礼申し上げます。


 

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